こんにちは、コラージュニスト沙織です。
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「虹色の通学路」
雨上がりの通学路、水たまりに玉虫色の油膜を見つけては、しゃがんでっじっと見つめるのが好きだった。 ちょん、と手を触れるとグラデーションはすぐに形を変えて渦を巻く。 そのままかき混ぜていると、やがて玉虫色は分離して姿を消す。 ふと、シャボン玉に似ているなと思った。 虹色の泡玉はすぐにはじけて消えてしまう。 虹色はなんて儚いのだろう、と子どもながらに思った。 あるとき私は、 美術高校のアトリエで色彩構成の課題に取り組んでいた。 理論的な配色で効果的に色を見せるデザインの課題だ。 理屈が苦手であまのじゃくな私は、 いつもパッとしない色使いをしては先生に酷評されていた。 絵を描くのが好きだという思いとは裏腹に「色」に対する苦手意識だけが膨らんでいった。 どんな色合わせが問答無用に美しく見えるのだろう? と絵の具の山とにらめっこをしていた学校帰り、落ちていく夕焼けの美しさに思わず立ち止まった。 じわっとにじんでいく橙と青のグラデーションに心を奪われ、ぎゅっとしていた心がほぐれていくのを感じた。 やがて橙が見えなくなると「ああ、これはあのときに感じた虹色と同じだ」と思った。 儚くも鮮やかな自然の色彩には、問答無用に心を魅了する不思議な力がある。 そこに理屈なんてない。 これまで難しく考えていたことの答えが、当たり前のように自然の中にあることを知った。 しかも完璧なバランスで! それからというもの私は「色」に夢中になった。 迷ったら自然の中にある色を思い浮かべればいい。空、花、海、美しい色彩は自然の中に溢れている。 とりわけ虹色は今でも大好きな色だ。 この10年、私がこっそり絵の中に虹の七色を潜ませているのは、 雨上がりの通学路で感じた〝あの儚い美しさへの感動をずっと留めておきたい〟と切に願うからかもしれない。
■このエッセイは2017年に河北新報「まちかどエッセー」に掲載されたものです
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